読んで感じた事【書評】文系のための数学教室

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本書は1冊の本にもなっていることからわかるようにとても立派な存在で、ぼくみたいな1人の平凡な数学好きがあれやこれや言うのは本当に恐れ多い気でいっぱいになるが、本書を読んでぼくが素直に感じた事を包み隠さず書いていきたいと思う。

文系にはおすすめしたくない

この本を読むことで、多くの人に「数学嫌い」から「数学下手」に変身してもらいたい、そういうことなのだ。
ぼく自身も数学が上手だとは思った事はない。理解には時間がかかるし、まだまだわからないことだらけだし、自分で何かを解き明かすなんて真似はさらさらできないし。でも数学が好きで、人生をかけてその楽しさを伝えていき、数学嫌いが1人でもいなくなれば、数学を楽しめる人が1人でも増えればいいなと思っている。
下手でも堂々と数学を楽しめれば、人生はいちだんと豊かなものになるだろう。
まさにそうで、数学を楽しむ方が増えればいいなという事で書かれている本書の目的には大賛成だ。でも、本書を数学が嫌いな方にはおすすめしたくない。それはなぜか。理解までの障壁が高くなってしまっているからだ。

いくつかの障壁

本書を手に取るような方は、「自分は文系で、数学が苦手」と感じてはいるがどうにか数学を楽しめるようになりたいな、と思っていることだろう。そんな方が理解までの障壁の高いと言える本書を読み、もしわからない部分がいっぱいであると「やっぱり数学わからないな」となる恐れがある。今度こそ本当に数学を楽しめるようになる事をあきらめてしまうかもしれない。書いてある事の理解の先に楽しさは広がっているのだが、理解の部分でつまずくと楽しさを感じる事は難しいと思う。
でも、決してわかりにくい書き方がされているのではなく、本書に出てくる数々の数学的話題の解説はすごくわかりやすい。そことは違う部分が、理解の障壁となってしまっている。それは、
  • 内容
  • 縦書きの文章
  • 図・絵の少なさ
だ。
■内容
序章でシグマやインテグラルが登場し、そのイメージの解説があるのだが、内容的に難しいと感じた。本書を楽しく読めるか否かは、この序章の内容を理解できるかどうかにかかっているような気がする。
で、その内容の理解の妨げになっているのが次の「縦書きの文章」だ。
■縦書きの文章
数式は左から右への横書きで書かれる。でも本書は新書という制約上からか縦書きで、縦書きの中に数式を書き込むために、数式は時計回りに90度回転させて表記されている。
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紙とえんぴつを利用して、式を実際に自分で書きながら本書を読むと一番良いのかもしれないが、そのように読みたい読者が多いかは疑問だ。

■図・絵の少なさ
数学が嫌いな、もしくは苦手と感じている方の中には、数式を見るのも嫌という方が多い。
数学が苦手だという方の多くは、数学が苦手なのではなく、「数式の眺め方がわからない」のではないかということです。
でもその数式にイメージを伴うことができるのなら、無機質な数式をイメージを持って豊かに捉えれるとしたら、毛嫌いも薄れるように思う。そしてイメージを形作るために大切なのが、図や絵の存在だ。もっとふんだんに図・絵をとりいれて、イメージを構築する手助けをする必要があるのではないかなと感じた。

数学を苦手、嫌いと思っている方を対象とするならば、こういう障壁をなるべくなくし、理解してもらうことに全力を尽くすべきだ。理解がなければ「嫌い・苦手」から「好き」への変化などとうてい望めないと思うから。

どんなかたに勧める?

筆者が言う「数学下手」の方が本書を読むと、その興味深い内容に惹き付けられると思う。かくいうぼくがその1人だから。
本書に登場する、今まで知らなかった民主主義を数学的に捉えた「アローの一般可能性定理」や、「ならば」の論理文を条件付き確率に対応させたストルネイカーの定義などの、数々の数学的話題はおもしろいものばかりで、その結果に驚いたり「そんなアイデアがあるのか」と感嘆したり、すごく楽しめた。

おわりに

数学嫌いが1人でも少なくなってほしい、という思いは、本書からすごく伝わってくる。
筆者には筆者の固有の数学があり、読者であるあなたにはあなたの固有の数学があるのです。
数学のどこがおもしろいと感じ、どんな部分が好きなのかは一人ひとり違って良い。数学が好きな方にも、数学を苦手と感じる、あるいは嫌いと感じる方にも、本書のように「自分の数学の楽しみ方」をみつけるヒントの提示を、このブログでもいっぱいできればなと思う。そのためにもぼく自身がもっともっと数学を楽しんでいこうと、そんなふうに思っています。
では、お読みいただきありがとうございました。

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