「嫌い」の気持ちを解き明かす【書評】人はなぜ数学が嫌いになるのか 好きと嫌いは紙一重

ぼくは数学が好きです。そしてまた、数学嫌いをどうにかしてなくしていきたい、というかみんなに数学を楽しんでほしいと思っています。
そのためには、数学好きのぼくがなかなか持てない視点、つまり「数学嫌いの目から見た数学」はどんなものなのかを知る必要があります。
これはもう実際に聴くしかない。
というわけで、本書に手が伸びるのも言わば当たり前のことです。

人はなぜ数学が嫌いになるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)人はなぜ数学が嫌いになるのか (PHPサイエンス・ワールド新書)
芳沢 光雄

PHP研究所 2010-09-18
売り上げランキング : 64995

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

人はなぜ数学を嫌いになるのか

「数学嫌い」の方たちは、なぜ数学を嫌いになってしまったのか、また数学のどんなところが嫌いなのかということを、普段からいろんな人に聴くようにしています。でも今までぼくが聴いてきた総数はせいぜい50〜60程度。
1章で「なぜ数学を嫌いになったのか?」という質問への「数学嫌い」な方々の答えが載せられているのですが、そのアンケート総数は1000を超えるというのです。その中でも主な理由を選び出して書かれています。
理由には、予想していたものから意外な理由までバラエティに富んでいます。
この1章は、ぼくにとって貴重な数多くの視点を与えてくれました。
数学を教える方にとっては、この1章を読むだけでも得るものは大いにあるでしょう。

嫌われがちな証明

2章以降は主に、このアンケートの結果をうけての著者考えが述べられていきます。中でも一番共感した部分はこんなところでした。

5 証明はとても役に立つ
〜〜
日本では「数学は役に立たない」と思う人が多数派で、さらにほとんどの人たちは「証明は全く役に立たない」と思っています。しかし数学の定理や公式は、どれも証明されるがゆえに成り立っている、すなわち人間の体にたとえれば、証明は数学の骨格のようなものです。

証明から学ぶことは多くあります。その一つが本署でも指摘されているように、"論理の組み立て"です。論理なくして証明は意味を成さないので、直に論理に触れることができます。
しかし、証明がひときわ嫌われているのも事実です。教える立場にあるものがそれを自覚し、証明問題を面白く楽しいものにすることが求められていると言えます。

お互いの数学感

と、賛同する部分ばかりを述べてきましたが、もちろん著者の考えの中には思わず反論したくなるような意見もあります。それについてここで書くことはしませんが、そのことも含めて楽しい一冊です。
というのも、一冊のなかに肯定的に読むところも反論意見を持ちながら読むところもあるからこそ「これはこうなんじゃないか」と思考が進み、自分のなかの「数学」が形作られていく感覚があるからです。
あれこれ考えながら読み進めたので、読むのに時間はかかりましたが、この一冊を満喫することができました。

おわりに

本書の1章の一番はじめに書かれている"数学を嫌いになった理由"が、「算数や数学は、もっと楽しそうに教えてほしい」です。
これはなんとも心強い事実です。数学を楽しむ気持ちは、数学嫌いをも変えられる。そんな力を持っていることを確信しました。
「楽しく学べ、思考力が身につく数学」を目指し、精進していきます。
では、お読みいただきありがとうございました。