ヒトの目線からアリの生態に学ぶ〜「働かないアリに意義がある」を読んで学んだこと〜
普段特にありに興味がある、という訳ではありませんが、なんだかこの「働かないアリに意義がある」という新書には興味があり、読んでみました。主にアリの遺伝や生態について書かれています。数多くの個体が集まり、社会を形成しているアリの生態はなかなかおもしろいもので、同じ要に社会を形成しているヒトの目から見ても学ぶことがあるんでないか。アリの社会を見ることで、ちょっとした共通点、アリのなかの”ヒトにおいてもいえること”が何か生きるヒントになるんでないか。というような雰囲気のことを「序章」にも書いており、普段興味をもたないアリについて書かれた本に興味がわきました。
”右にならえ”じゃつまらないし、それはあんまりよくもない
エサを見つけると仲間をフェロモンで動員するアリAが移動していると仮定し、Aを追尾するワーカーには、Aのフェロモンを100%間違いなく追えるものと、一定の確率で左右どちらかのコマに間違えて進んでしまううっかりものをある割合で交ぜ、うっかりものの混合率の違いによってエサの持ち帰り効率はどう変わるのかを調べたのです。するとどうでしょう、完全にAを追尾するものばかりいる場合よりも、間違える個体がある程度存在する場合のほうが、エサの持ち帰りの効率があがったのです。仲間の誘導に100%導かれるより、ちょっと違う方向に進むやつがいた方がかえってよくなったりする。これって、何かについて数人が集まって話し合うときにもいえるんではないでしょうか。みんなの意見が同じ方向を向いてるよりも、ある程度は同じでも何人かは違う方向を向いてるほうがかえって解決までのルートが早く見つかったりしたり、別のいい意見が状況をガラリと改善するかもしれません。みんながみんな右にならえで同じ方向に進んでいくのは、ある種の強力なパワーを生み出しますが、それは同時に少し恐ろしい状態であり、諸刃の剣と言えます。自分の意見を持ち主張する、ってことを今よりもしようと思いました。
冒険のまったくない人生が味気ないように、効率ばかりを追い求める組織も、実は非効率であったりするのかもしれません
一個体は単純でも、組み合わせ次第で高度に複雑に
効率よく仕事を処理していくためには、必要な個体数を必要な場所に配置していく必要があります。ヒトでその役割を果たすのが上司の存在ですが、そんな役割のいないアリは非効率なのか、というとそうでもないようです。仕事にとりかかる「腰の軽さ」に個体差があることで、必要な個体数を必要な場所に配置するシステムがつくられているというのです。
「刺激量が閾値を超えるか超えないか」で動くか動かないかが決まる、一個体だけに目を向ければとても単純な仕組みと言えます。でも、それを組み合わせることで、必要な個体数を必要な場所に適切に配置するという複雑な高度な処理を可能にしています。パソコンでも、電気のON/OFFの二つの組み合わせで成り立っていることもまさに単純を組み合わせて高度な処理を可能にしている良い例です。
刺激に対して行動を起こすのに必要な刺激量の限界値を「反応閾値」といいます。
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反応閾値に個体差があると、一部の個体は小さな刺激でもすぐに仕事に取りかかります。
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ある個体が一つの仕事を処理して手いっぱいなときに、他の仕事が生じた際、その個体が新たな仕事を処理することはできませんが、新たな仕事のもたらす刺激が大きくなれば反応閾値のより大きな別の個体、つまり先の個体より「怠け者」の個体がその仕事に着手します。
このシステムであれば、必要な個体数を仕事量に応じて動員できるだけでなく、同時に生じる複数の仕事にも即座に対応できます。
自分自身が仕事をするときにも少し見習いたいと思います。脳は複雑な処理が可能なすごいやつですが、いつもいつも複雑な処理を負わせていては負担がかかり過ぎます。それよりも、単純な作業を積み重ねて一つの複雑な処理をしていく方が、脳にとっても省エネだろうし、単純かできる部分はそうすべきです。一つのプロジェクトをいくつかのタスクに分けてこなしていく良さというのは、こういった部分にあるのだと思いました。
ぐちゃぐちゃにならないシステム
個体によって「腰の軽さ」に違いを出し、仕事を効率的に処理しているのは何もアリだけに限ったことではなく、ミツバチでもそんな種がいるらしいです。反応閾値に個体差があることによる恩恵を受けようと思うと、個体間の反応閾値にばらつきがあるとあまりよくなさそうです。すぐに仕事にとりかかってしまう腰の軽い個体ばかりだと、みんな仕事に出払ってしまって新たにでかい仕事が舞い込んできてもそれにとりかかることができるのはわずか、という状況に陥ってしまいます。もちろんなっかなか仕事を始めないやつばかりだと、それはそれでまずいです。仕事たまりっぱなし。
そんな「腰の軽さ」にばらつきが起きてしまわないようなシステムがちゃんとできてるみたいなんですよね。
ミツバチのワーカーが「腰の軽さ」ごとにいくつかのグループに分かれていることは先に述べたとおりですが、今度は父系に注目して遺伝子分析を続けると、それぞれのグループが同じ父系に属していることがわかってきました。つまりミツバチでは、反応閾値が遺伝子型によって決まっていると解釈できたのです。すぐに仕事にとりかかる子どもばっかりをもつ父と、なっかなか仕事しない子どもばかりをもつ父。こんな風にしっかりと分かれていると、同じ父から子どもが一定期間で生まれていけば、反応閾値にばらつきが起こることはありません。一度つくられた、仕事を効率よく処理するシステムを継続していくことが可能です。
これはとても大切な教訓を与えてくれます。一度システムをつくってしまえばとたんに楽になるということです。ヒトが仕事をこなすときでも、例えばチェックリストを作ってしまうなどして、ある決まった仕事を処理するシステムができてしまえば2度目からはすごく楽になりますものね。
おわりに
こんな感じでアリの生態をちょっとヒト目線で見るとなかなか学ぶことや、ためになることが詰まった1冊でした。単純にアリの生態はヒトとはかけ離れていて、それを知るだけでもすごくおもしろかったりするのですが、ちょっと視点を変えて別の角度から見ることもやはりとても大切なんですね。では、お読みいただきありがとうございました。